11.創造と発見への意欲

 矢口は、戦後アメリカを中心に流行したプログラム学習を日本に導入した先達の一人であった。プログラム学習は、方法としてはコンピュータを利用した学習支援システム「CAI」へ受け継がれ、形態としては「学習の個別化」として学校教育に取り入れられたが、肝心の学習プログラムの研究と開発は、指導要領に基づく日本の学校教育とは相容れないところがあり、変質しつつ衰退していった。下記の一文は、新しい教育の方法を普及させようと努力した矢口の思いであるが、現在にもそのまま通じる指摘ではなかろうか。

「…これまでわれわれは教育技術をいつも諸外国の先進的努力の移植という形で取り入れてきた。諸外国が先進的努力でによって積み上げたものを試験済みのものとして翻訳し輸入したのである。そういう習慣があるから、今まだ生まれたばかりで、将来どういう形のものに成長するかわからないといったものに対する努力に不慣れである。とかく、我々はすでにわかったものを受け入れる態度になりがちである。仮説をたて、実証的に研究をし、創造と発見によって新しい現実をつくるという態度が希薄である。そういう点は、多くの教師の態度にもすぐ現れる。いつもすっかりわかってしまったものを受け入れるという態度である。またそういうものでなければ実践しようとしないという態度である。あるいはやってみない先に限界まで知ろうと言う態度である。要するに頭の中で観念的に考えるのである。実践的にものをつくり上げようとしないのである。実践によって自ら解決し、発見して、新しいものをつくりあげる態度がない。模倣文化などといわれる所以はそこにある。自らの責任と努力によって、自主的に新しい現実をつくる意欲に欠けるところがある。」
(1962矢口新「プログラム学習の理論と方法」明治図書p248?9)