●やり始めると、やる気が出る
やる気(意欲)を生み出す場所は大脳辺縁系(*)の側坐核。そこの神経細胞が活動すればやる気が出る。側座核の神経細胞が活動すると、海馬と大脳の前頭葉に信号が伝えられ、シナプスを刺激してやる気を起こす神経伝達物質が送り出されるのである。
ただ、この側座核はなかなか活動しない。ある程度の刺激がきてから活動し始める。しかし活動が始まると側座核は自己興奮してきて活動が活発になる。特にやりたいと思っていなかったことでも、やっているうちに気分が乗ってきて集中力が高まる。「やることによって、やる気が起こる」ということである。
とすると、意欲(やる気)を起こさせるには、行動に導くための工夫が大事だということになる。やる気を起こす活動をしている側座核に強い刺激が伝わるように、学習や仕事を組み立てる必要があるということだ。
●脳は「快」の方向に働く
「快」の方向に働くというのが、脳の本性である。「快=自分にとって心地よい=安全」という、自分の生命を守る本能としての働きがあるからである。「不快=自分にとって心地が悪い=危険」となるからである。だから脳は、「快」の状態を好きになり、「不快」の状態を嫌いになる。「快」になる方向に行動し、「不快」を避ける行動をする。「好きなことは、言われなくてもやる」というのはそういうことだ。
快・不快の感情をつかさどるのは、やはり辺縁系の扁桃体。即座核と扁桃体の活動が、意欲を起こすための鍵となる。
●成長が自覚できると、頑張れる
いくら勉強してもわからない学習、いくらやっても成果が上がらない仕事には、だんだんやる気を失ってくる。この方法、この進め方でよいのかという疑問もおきてくる。逆に、自分の力が確実に伸びた、成長したと自覚できるとやる気が出る。成長が自覚できたときの喜び(快)が強い刺激となって側座核に伝わり、そのときの快感を持続したいと思うからだ。
進めて行く段階段階で成長が自覚できる、また目標に近づいていくという喜びや感動が生まれるような、学習や仕事をそのように組み立てるとよいということだ。
●「頑張ればできそう」と思えると、意欲的になる
脳がどういう課題を与えたときに一番活性化するかを、実験して調べたという。脳の血流量を調べたところ、簡単すぎる課題のときは、脳の血流量は上がらない。難しすぎる課題のときにもあがらず、むしろ低下してしまう。そして、少し頑張ればできるという程度の課題のときに、血流量が増えて脳が活性化していることがわかったという。
つまり、少し上の目標に向かっていくときに、一番意欲がわくということだ。目標に到るまでを、頑張ればできる、といういくつかの段階に組み立てて、少しずつ目標に迫っていくという学習の仕方,練習の仕方が、脳には適しているということである。
● 失敗したとき、やる気がでる
失敗は、不快である。脳は、失敗を避ける方向、不快を打ち消す方向へ活動する。だから、失敗しそうなことには手を出さない。しかし、失敗してしまったときにはやり直したいという気持ちが生まれる。失敗を修正して、不快の状態から抜け出したいのである。
だから、失敗したときは学習するチャンス、学習させるチャンスということだ。失敗を自覚していれば、同じ失敗をしない。意識の自覚ではなく、身体活動を含めた総合的自覚をさせ、自分自身で失敗を修正していく。修正できている、修正できた、という実感が得られれば、それは「快」になる。意欲的になる。
苦労を重ねて失敗を克服したとき、その喜びは大きい。また、仲間とともに助け合った経験も、大きな喜びをもたらす。そういう経験をしたものは、苦労が見えていても、また失敗の危険があっても、意欲的に取り組むようになって行くのである。
★脳を意欲的にするための考えるポイント
① 好きなこと,関心のあること
② 頑張ればできそうと思える目標の設定とその段階
③ 成長が自覚できる学習の組み立て(前段階との比較など)
④ 失敗の修正のしかた
*大脳辺縁系
大脳新皮質の奥に位置する。進化の早い過程できた部分。論理や言語活動を成立させる大脳新皮質(新しい脳)に対して、本能的に生き活動するための脳で、古い脳と呼ばれる。