「現代は転換の時代と言われる。今は過去の延長線上に生活することを許されない時代である。あらたな予想外の事態に対してまったく新たな発想で対処しなければ、未来を生むことができないという時代である。そこに独創的人間の創造的努力が待望されているのである。しかもそれが歴史の過去の時代のように、一部少数の人にのみ求められているのではない。すべての人にそういうものものが望まれているのである。このこと自体過去の歴史になかったことであって、我々にとってまったく新しい事態である。歴史は少数の人によって動かされるという思想でものを考える人は、自分がすでに時代遅れになっていることを気づかないでいる人である。
すべての人々によって現実が正しくとらえられ、そこから現実を打破していく努力が生まれ、それで新たな現実が生まれる以外にない。すべての人々に事実から正しい情報をとらえる能力が必要になって来た。その情報を処理加工して、新たな情報を生み出す能力が必要になっている。それが新たな人間の実践活動を生み出し、新たな転換が起こり、新たな社会が動きだすのである。現代日本の現実は、そういう現実である。」
1972「能力開発のシステム」(国土社)より。(矢口新選集2 p207?8所収)
矢口はこのあとに「産業界のいわゆる技術革新はその発端であったにすぎない。」とし、さらに「それはたんに技術革新というような局限された世界のことにとどまらなくなってきた。生活の全分野にわたって新たな転換を必要とするに至ってきた。」と述べ、産業公害、市民運動、消費者運動、そして内外の政治、経済の転換への大衆参加による革新となると指摘した。こうして育てるべき新しい人間像を具体的にイメージし、教育方法の転換の必要を具体的に提起していったのである。