[実践報告2]
Learning by Doing方式が言葉の壁を打ち破る
- 中国工場のリーダーを育てる研修を終えて -
松下電池工業(株)モノづくり研修センター 中津留 秀男
■共通語はボディランゲッジ?
当社では、昨年より中国・無錫にある当社の工場に生産ラインを導入する計画を進めています。昨年、私どもモノづくり研修センターでは、その工場で責任者になる立場のスタッフ11名を受け入れて、管理技術と設備技術の研修を行いました。研修生は全員2003年度に地元の大学を卒業したばかりの新卒者です。当社はこれまでにも、ロシア、中南米各国からの研修生を受け入れたり、南米ペルーへの出張研修に出かけるなどの形で、松下グループの海外の工場で働く基幹人材の中長期の学習・訓練を実施して来ました。
研修生の多くは英語が使えず、母国語で学習・訓練します。今回も主として使う言葉は、中国語で、時々英語や日本語を交えるというやり方で進めました。しかし、いつもそうですが、基本の知識の所は通訳を必要としますが、今回も言葉で苦労することはほとんどありませんでした。もちろんコミュニケーンには共通の言葉は重要ですが、研修の場では、やること、研修の目標が明確であること、[Learning by Doing]方式によるステップ バイ ステップの学習プログラムがあることの方が重要です。具体的な、対象物(教材)があり、学習を促すプログラム(解説図含む)があれば言葉の壁は容易に打ち破ることができます。
重要なのは相手の立場を理解し、一緒に学習しているという態度だと思います。教えるのでなく、共に学習しているのだという心構えが大切です。もちろんユーモアとボディランゲッジも交えて…。
■研修内容は、管理技術と設備技術
約2ヶ月の研修期間中、勤務時間中は生産ラインに入って見習い実習を行い、毎週土曜日がモノづくり研修センターでの研修にあてられました。
センターでの研修期間は全部で5日間で、下記のようなスケジュールで実施しました。
①11月22日=実践品質管理
データを作り、集計・分析、改善案の提案・実施、結果の確認など
②11月29日、12月6日=責任者の安全管理
安全配慮義務、作業指導方法、作業手順書作成など実践研修
③1月10日、17日=機械要素の保全・シーケンス制御のプログラム学習
現場での実習と合わせて、研修センターでこれから工場のリーダーとして必要な基本技術と管理技術をじっくり学んでもらうというわけです。
■手を動かしながら理論を学ぶ
いずれの学習でも、ほとんどテキストは使わず、実践し、考え、チャートに整理し、最後にワークブックにまとめるという[Learning by Doing]方式で行なわれました(写真参照)。グループで取組むため、色々な考え方が議論され、自己の考えが語られました。時には、教養を見せる研修生もおり、ねじの基本理論、くさびの原理では、三角関数を理論づける研修生もいました。
特に、シーケンス制御は、これまでも学習の主体となっていますが、一本一本電線をつなぎ、自分で配線した結果が即検証でき、良し悪しが理解できる内容になっています。配線の結果が自分で考えたようには答えが出なかった、なぜだろう??? そのことが理解できたときは、本当に自信をつけた様子がありありとうかがえました。
やはり、手を実際に動かしながら、理論や理屈を学ぶため、「面白い」「楽しい」という声が聞かれました。今回は、一応学校で電気制御を専攻した研修生もいましたが、学校で学んだやり方とは違う学習方法に興味を見せ、プログラムから外れて応用を利かせたりしていました。
次のステップのパソコンを使っての、タイミングチャートとラダー図の理解へもスムーズに移行でき、基本の回路を手作りでしっかりやることの大切さが良く理解できたようです。このことは、これからリーダーとしてメンバーの指導にも生かせると、研修の成果に満足していました。
今後もアジア、アフリカなどでは生産技術・管理技術の研修を必要とする国が多いと思われます。日本の誇るこれらの技術を、楽しく学習できる[Learning by Doing]方式で、もっともっと多くの人々に研修してもらいたいと思っています。
能力開発ニュース63号(2004/6)より