[実践報告1]
松下、ペルーでも能開方式で
-「電気・シーケンス制御学習システム」による製造スタッフの研修-
ペルーのリマにあるペルー松下電器(Matsushita Electric Industrial del Peru S.A.)では、主催者である日本の海外技術者研修協会(AOTS)の要請で、昨年6ヶ月に亘ってメカトロニクスに関する研修を実施したが、その中で当センターが開発した学習システム「電気シーケンス制御」を用いた自主的行動学習を行なった。構案教材とプログラムテキストを使ったグループ学習は大好評のうちに終了、受講生との交流も活発に行われたとのこと。インストラクターをつとめた松下電池工業(株)モノづくり支援センターの中津留秀男さんにお話を伺った。
(文責:編集部)
期間は6月~12月、約80時間の研修
Q:まず、概要について伺いますが、研修はいつ行われたのですか?
A:今回の研修の全体スケジュールは6月から12月までの6ヶ月、約80時間にわたって行われました。メカトロコースという研修で、私はその中の10月8日からの2週間を受け持ったのです。
Q:受講生はどういう人々だったのですか?
A:ペルーにある製造工場で働く人々26名で、年齢は20代が一番多く15名、最高は60歳の男性ばかり。職種はメカニック、一般職、管理職などで、電気については初心者という人たちですね。
Q:みんな松下の工場で働いている方々ですか?
A:いいえ、ペルー松下の社員は8名だけで、後は近隣の工場、自動車関係、照明器具製造、プラスチック製造、飲料製造、調味料製造などいろんな工場で働いている人たちです。
Q:全員ペルー人ですか?
A:ええ、もちろんです。
Q:研修は集中で行われたのですか?
A:いいえ、毎週水曜日の夜と土曜日の午前中、それぞれ3時間と5時間というタイムテーブルでした。特に水曜日は仕事が終わってからでしたから受講生は大変だったと思います。
Q:出席率はどうでしたか?
A:全員皆出席、遅刻もほとんどありませんでした。中には30分も前から来て待っているという受講者もいました。
大好評だった自主的行動学習
Q:学習には興味をもったようですか?
A:大好評でした。やはり自分たちのペースで、実際にやりながらの学習ですから面白かったようですね。講義を聴くことの疲れが、この時間で元気になったような感じでした。実は私はこの間の空いている日に、もう一つ別のチームにも研修をやったんですが、そちらでも大好評でした。
Q:それはどういう?
A:ペルー松下の製造社員40人に対して安全管理、品質管理、5S活動など全般的な項目にシーケンス制御も含めて学習会をやったんです。こちらの方には女性が4人いて特に熱心でした。若い女の子が年配のちょっと頭の固いおじさんをリードする、という具合で、みんなから拍手でした。私もチューされたりして、いい思いをしましたよ(笑)。
Q:自分たちでやる自主的学習というものに抵抗感はありませんでしたか?
A:なかったですね。むしろ彼らにはこういう学習の方が好まれるように思いますね。
私も実は、出かける前は不安で、学習内容が理解してもらえるか心配でした。行ってみたら、苦労なし、トラブルなし。楽しいだけだった、という感じですね。
Q:それはよかったですね。
学習はグループで
Q:次はもう少し具体的なことをうかがいたいんですが、テキストは翻訳したんですか?
A:ええ、あちらはスペイン語ですから、スペイン語に翻訳しました。
Q:教材は日本で準備されたんですよね。何セット用意したのですか?
A:全部で5セット、一部はセンターから購入し、あと松下でアレンジして送りました。予算が十分ではないので社内で作った部分もあります。約2ヶ月ほどかかったですね。
Q:学習はグループでやったんですか?
A:はい、能開式に5,6人のグループでやりました。26人を5つのグル-プに分けて学習してもらいました。こういう学習方式は、彼らは初めての経験だったわけですが、違和感は全くないようでした。6月から講義を聴くことが続いていたのが、行動学習で気分転換もできたようです。
Q:グループワークはどんな具合でしたか?
A:違う企業の人同士がグループになっていて新鮮だったようです。本来彼らは人付き合いが上手いですから、仲間に入らないでポツンとしているというようなことはなかったですね。スムーズでしたね。
Q:インストラクションはどんな風にやったんですか?
A:日本でやっている通りですよ。ボディトークやペンギン踊りなどを織り込んだ私流の導入で、リラックスしてもらって、学習に入ります。テキストがよくできていますから、大体は自分たちでどんどんやっていきました。
私はうろうろしていて、質問に答えるわけです。わからないことがあると、親指を立てて呼びますから。面白かったですよ。
言葉の障害は全くなかった
Q:言葉の障害はなかったのですか?
A:学習の面では全く問題ありませんでした。なにしろ受講生が主役の学習で、講義をするわけではないですから。得意のボディランゲ-ジも多用しました。通訳もつきましたから、わからない時は通訳を呼ぶ。休憩時間が困ったということくらいです。なにしろみんな私のまわりにやってきて話すものですから。あわてて通訳を呼ぶということもありました。
Q:学習の内容は彼らのニーズにマッチしていたんですか? よく理解できたようですか?
A:あちらでは、個人として実力があればそれなりの評価が得られる、ということがありますから、一人一人がレベルアップをしよう、という意識をしっかり持っているんです。
それに対して、この学習は目的がはっきりしていますから、彼らの意欲にぴったり応えられたということだと思います。とにかく、みんな意欲的で熱心でした。
今回の研修実施の経緯
Q:最後に今回の研修が実施されることになった経緯などについて伺いたいのですが
A:これはそもそもは1996年8月にペルーを訪問した当時の首相橋本龍太郎が、フジモリ大統領と会談の際、企業内学院構想を提案、大統領も賛同。98年に最初の企業内学院を運営したところ好評で、継続の要望を受け毎年やっていて、今回は3回目になります。
実は学院は以前から松下にあった「ナショナル学院」を母体としているため、管理運営を松下がやってきているのです。
Q:そうすると研修の費用は日本政府が負担しているのですか?
A:研修の費用は、政府から60%出ます。後は松下で負担しています。受講者や参加企業の費用負担はありません。松下としては、ペルー国の発展に貢献するという目的で協力している。ペルーにおける産業人育成のモデルケースを目指すという学院の設置目標に賛同しているのです。
Q:受講者の募集はどういう形で行われるのですか?
A:一つは、新聞や雑誌、公共機関などを通じての公募、もう一つは、ペルー工業会、AOTSペルー同窓会、ペルー松下などの推薦という方法です。応募資格は実務経験3年以上ということで、応募者に面談して合否を決定する、というやり方です。選考には海外協力機関から選ばれた実行委員会が当たります。
要請があればどこへでも出かけます
Q:松下電器産業が窓口になっているようですが、松下全グループの中から、今回の研修に中津留さんが選ばれたのはどういうわけですか?
A:現地の責任者が來日した時に、例のシーケンス研修を見たわけですよ。それで是非ペルーでもこの学習をやってほしい、ということになったわけです。
Q:企業内学院のこれからの予定は決まっていますか?
A:最近の政治情勢もあり、今年はどうなるかまだわかりません。松下としては、人づくりの分野で日本の果たすべき役割は大きい、積極的に取り組むべきだという考えです。
Q:また中津留さんに、と要請があれば出かけますか?
もちろん、喜んででかけます。自主的行動学習が人づくりに貢献できるという自信ができましたから。どこへでも出かけて行きたいです。
能力開発ニュース53号(2001/3)より