2.プロフィールに代えて…

 矢口新が1990年春に77才で逝って、今年は16年目である。
 教科書中心の一斉授業と知識注入型の教育を徹底して批判した矢口は、1965年国立教育研究所(教育内容室長)をやめ、68年には財団法人能力開発工学センターを設立。脳科学を土台にした独自の行動形成理論に基づく、実践的な教育プログラムを次々に開発していった。一方70年代から盛んになった教育工学の形式主義や機器指向にも批判的で、自ら率先して開発してきたCAI(コンピュータがアシストする教育システム)についても、その弊害を早くから危惧していた。グループでシミュレータを使って学習する独自のシステムを開発したのはその頃である。
 常に30年先を見ていたと評される矢口の方法論は、いまの教育の課題、真の学力をいかに養うかという問いにヒントを与えてくれる、と私は考えている。矢口の著作、セミナーや研究会の記録、そして彼の周辺にいた人たちや私自身がかいま見た矢口の言行などから、それを探ってみよう。

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