第5回研究会 越川氏の学会報告を中心に

日時:2007年9月30日(日)午後1時~5時
場所:矢口文庫(埼玉県新座市)
出席:越川、矢口(み)、北村、小澤

1.水海道調査(8月実施)の結果について

 水海道実践を知る上で、最も重要と考えられる資料が猪瀬資料(NOs.1~100)であるが、今回の調査では3割ぐらいしか掴めてない。再調査が必要である。

 水海道小で見せてもらった「名村リスト」は、「歴史の部屋」の資料を郷土史家の青木氏がリストアップしたもので、名村氏が10部コピーして関係機関に配布したそうである。手書きのため分厚い資料になっているので、データ化する必要がある。借用できるか。

2.矢口研の研究課題について

 矢口先生の実践を調べる切り口について話し合った。未だ群盲象をなでるに等しい状態の中から、下記の3点が浮き彫りになった。
 A.矢口先生が研究・実践した教育設立(カリキュラム)の方法論を明らかにすること。
 B.学ぶものすべてが学習可能な方法論(プログラム学習)への展開の軌跡を明らかにすること。
 C.勤労者の教育という視野による研究・実践の軌跡を明らかにすること。最近イギリスで提唱されているワークプレイスラーニングにも通じる思想・実践が見られる。

<Aについて>
○水海道については調査が開始されたが、富山の調査も急がれる。
 高卒者の出身県への定着率は富山県が日本一ということだが、総合開発の思想・実践が影響しているか。(要、旅費の工面)
○並行して、国研の紀要も調べる必要がある。国研の移転(虎ノ門)で図書館の資料が散逸する恐れはないか。(後日確認したところ、図書館は目黒にそのまま残ることが判明)

<B・Cについて>
 まず、矢口文庫の資料について、何が残っているか、何を残すべきかを明らかにする必要がある。研究会とは別に資料整理の時間をとる必要がある。

3.越川氏の学会発表について

 越川氏の教育史学会(第51回、9月22日、四国学院大学にて開催)での発表が終り、報告があった。

 テーマ:戦後教育改革期における矢口新の役割
     -戦後地域教育計画の分析を通してー
 
 要旨<教育史学会における発表の意義>:

■戦後地域教育計画論を、戦後教育史の中でどのように位置づけるか
 今までの戦後教育史の中では、カリキュラム改造の時期は戦後教育改革期であり、社会科に限られていた。地域教育計画論をカリキュラム改造と位置づけ、特別教育活動もカリキュラム改造として位置づける必要がある。埼玉県三保谷プランは、自治活動や部活動にみられる特別教育活動を生かした社会学習であり、日本の民主化に大きい可能性を内包した教育活動で日本的な特色のあるものであった。その歴史は、川口プラン・三保谷プラン・水海道実践・富山総合教育計画として脈々とつながっているが、教育学的に明らかにされていない。日本社会の現実の中で歴史的に展開された理論と実践の中からくみ取る作業がない研究は、現代の実践における土着(日本に根づいた)の力強い源流とはなりきれないで、欧米学問の輸入による啓蒙的な教育理論や実践に陥りやすい
■矢口新を研究でとりあげる意味は何か
 川口プラン・三保谷プラン・水海道実践・富山総合教育計画をつなげるものは、これらの全てを中心的に指導した矢口新(やぐちはじめ)である。矢口は、海後宗臣(かいごときおみ)門下の第一期生で、戦後教育改革期にも大きな理論と実践の成果を残した教育史上の重要な教育学者であるにもかかわらず、従来の教育史学会では一切取りあげられていない。多くの海後門下生の教育学者の中で、海後宗臣著作集の編集の筆頭になったのが矢口である。戦後教育学が、大学教員中心であり、その系列以外の研究や分野は研究対象からはずれる傾向があった。学校中心主義や教育内容・方法の官僚統制の弊害により、矢口の理論や実践は、今までの教育史研究ではとりあげられていない。教育実践や教育事象に影響を与えた理論や教育研究者を、社会的立場とは相対的に独自な形で評価する必要がある。
■地域教育計画論における矢口新の役割の研究の意味は何か
 本研究は、日本の地域生涯教育計画論を構築するうえで社会教育や学校教育をも含めた地域全体のカリキュラム作成計画の研究の土台になる。今までの教育研究・教育史研究が、分野ごとの研究に制約されてしまったり、未来への教育政策への大きなビジョンを持たなかったり、大学や学会の枠内にとどまる傾向があったため、矢口新は研究の対象にならなかった。海後宗臣=矢口新の日本の戦後教育の基盤をつくった両教育学者の理論と評価を行うことが、戦後60年の日本の教育の再評価につながり、新たな研究の未来を開く。

≪質問者≫
  橋本昭彦氏(国立教育政策研)
 「矢口の仕事の負の部分、正の部分をどう評価するか。」
  秦氏?
  阿部氏?

なお、この研究発表は何らかの形で論文に掲載されるよう準備をしている。