32 失敗2題

「失敗」のとらえかた

 日本人は、失敗を「挫折」と考えてしまいがちだが、失敗こそ「成功の道につながるプロセス」である。
 なぜ失敗をしたかを分析すれば、成功につながる視点が見えてくる。
 育てるべきは、失敗を分析する姿勢と、分析する視点である。
 何かを考えついてやってみる。うまくいかなかった。
 それを失敗と見るのではなく、だめな方法が明らかになったと見る。
 考える方向が少し狭まったと見る。
 そういう思考の仕方が大事である。

失敗の検証 

 失敗を生み出した人間行動の分析をしなければ、失敗の克服にはつながらない。
 「不注意」「知識がなかった」「経験が不足していた」というような分析では、失敗の克服にはつながらない。それでは、ほとんどの失敗の原因は、同じになってしまうだろう。 
 なぜ「その不注意」が生まれたのか。不注意を生み出す条件はなかったか。「経験」が生み出すどんな能力が不足していたのか、それを分析しなければならない。

 どのような観察・判断が不足していたか。
 どのような技術行動が不足していたか。
 当事者の勤務条件はどうだったのか。
 見極めを難しくする場の条件はなかったか。
 行動を確認する習慣,システムは不十分ではなかったか。
 
 言葉で知っているだけでは、行動できない。
 「気をつけよう」「失敗しないようにしよう」と思っただけでは、できるようにはならない。
 脳は、行動しただけのことができるようになるのである。
 失敗を克服するための行動のあり方を明らかにして、行動感覚となるまでの行動力として育てる方策を生み出さなければならない。

カテゴリー: 仕事, 教育・学習

28 成長する組織の条件 

できることだけやっていたのでは、成長しない

 始めてのことをするときは、たいていは失敗する。
 人間の脳は、失敗を修正することによって、目標の行動を成立させるための神経回路を作り上げていくのである。だいたい、初めての行動を行うときには、その行動を成立するための回路は出来上がっていない。人間の脳は、行動したときに発生した神経回路の興奮を記憶するという形で行動のしかたを蓄積していくものだからである。
 初めての行動をするときは、その行動を成立させるのに近いものを組み合わせて、脳は対処する。それに不足があれば失敗する。行動表現するための身体の各部と神経回路との信号のやりとりが、目標行動が要求するより遅い場合も失敗する。
 人は、何度もやり直してその失敗を修正していく。そうして、だんだん目標の行動を成立させるための回路を作っていくのである。繰り返すことにより信号の伝達スピードも速くなり、やがて目標の行動ができるようになる。
 人間は失敗を修正することによって成長していくのである。できることだけやっていたのでは、能力はそれ以上に伸びない。

失敗を許して、チャンスを与える

組織の力は、一人ひとりの力の総合である。失敗させたら組織にとってマイナスと考え、失敗させないようにしていたのでは、そのものの力は伸びない。一人ひとりの力が伸びていかなければ、組織としての力も伸びていかない。
 つまり、一人ひとりに少し背伸びをさせて、仕事に挑戦させることが大事だということである。そのものの頭をフル回転させて、仕事をさせる。そして、やったこととその結果を自覚させることが、成長させるためのポイントである。
 失敗したら、失敗の原因を分析させる。その対策を考えさせる。そしてもう一度チャンスを与える。それが上に立つもの、指導する立場にあるものの、あるべき行動の姿勢だろう。

そして、もうひとつやること

 それは、部下の失敗のカバー。
 上に立つもの、指導する立場にあるものは、失敗をカバーする力、失敗に対処する力を持っていなければならない。そうした姿勢と力を持った組織でなければ、成長していかない。

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12 「木と相談してやりなはれ」

 昭和9年(1924)から50年にわたる法隆寺昭和の大修理の棟梁であった名工、日本一の宮大工と称された西岡常一さんは、
  「人に聞いたことはすぐ忘れる。大事なことは木と相談してやりなはれ」
と言って弟子を育ててきたという。木の使い場所の条件を調べ、木の状態を観察し、自分自身で判断してやれということである。人の判断の結果を聞いてもそれはすぐ忘れる、そして次の自分の判断材料とはならないということである。試行錯誤するということが、学習上重要な意味を持つということである。
 このことは、脳行動学でも重要なポイントである。自覚的・探究的に行動してきた人間の脳のネットワークは、情報を分類整理しながら、関連付けながらつくられていく。それらの記憶を条件に応じて組合せることによって、応用も利くし、新しいことも生み出せるのである。

 それにしても、その道の達人は、人間の行動を見ることにおいても達人なのだと感心させられる。

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5 指示と指導?いかに相手の脳を働かせるか その2

つぎに示すのは、先輩(A)が後輩(B)を指導している2つの例である。
1年後にどちらの後輩が成長しているかは、言うまでもないことだろう。

【事例1】

A この記事だけどなあ。
B ハイ。

A (写真を示し)これだよ。こんなのしかなかったのか?
B なかなか、いいのがなくて・・・

A 迫力ないんだよな。もっと動きがあるものあったろう。
B (首をかしげる)

A 持って来いよ。写真のファイルだよ。
B ハイ!

A (Bが持ってきたファイルを探して)
  これだな。大きく焼いてこの部分だけ使え。
B ハイ!

A それから、ここな。表現がまずいんだよ。
  言いたいことがぼやけてるぞ。書き直しといたからな。
B ハイ。

A あとはまあいいだろう。写真できたら、すぐ印刷にまわせよ。
B ハイ。

【事例2】
A なかなかいい出来だよ。
B 本当ですか?

A 100点満点とは行かないけどな。
  2ヵ所ばかり気になるところがあるんだ。
B ハイ、どこですか?

A まず、この写真だ。もっと動きがほしいと思わないか?
B ハイ、そう思ったんですが、なかなかいいのが無くて。

A 1枚をそのまま使わなくてもいいんだぞ。
  いい部分を拡大して使うとか、2枚組み合わせてもいいんだ。
  それでも無いか?
B 写真持ってきます。
  これどうですか? ここを拡大するというのでは・・・

A うん、いいじゃないか。じゃあ、これはよし、と。
B ハイ!

A もうひとつは、ここの表現だ。少し印象が弱いな。
  結論を先に持ってきて、言葉も少し強い調子にする。
  時間がないから、順番を入れ替える程度でやってくれ。
  制限時間10分だ。
B ハイ!
  (10分後)これでどうでしょうか。

A よーし、まあいいだろう。これで決まりだ。
  写真拡大したら、すぐ印刷の方に回してくれ。
B ハイ!

A お前、いいセンスしてるぞ。つぎも頑張れよ。
B ハイ!

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4 指示と指導?いかに相手の脳を働かせるか その1

 +1ずつでも毎日たしていけば、1年たつと+365になる。しかし、0ならば、1年たっても0のままである。逆に?1ならば、1年後には?365になり、+1ずつの場合とは730もの差がついてしまう。

 多くの人は人生の中で、それぞれ何らかの形で指導的立場にたつ。先輩として後輩に、上司として部下に、親として子に、そして教師として学習者に、行動のしかた,仕事のしかた,勉強のしかたをいろいろと指導する。相手に対して毎日毎日積み重ねていくその指導は、果たして相手を成長させる+1の指導になっているだろうか。
 相手を成長させる「+1」の指導となるか、単なる「指示」にとどまるか、逆に「成長の妨げ」となるか、そのポイントは、相手に対する働きかけが、いかに相手の脳を働かせるような行動になっているかというところにある。それは、私たちの脳の学習のしかたが「行動したことを学習する」 ということだからである。

 私たちの脳は、行動したときに働いた脳の働き方(神経回路への信号の伝わり方)を、行動のしかたの記憶として蓄積していくようになっている。 計算する能力は、計算行動をすることによって身につくのであり、計算式とその結果をただ覚えただけでは、計算はできるようにはならない。教師がやり方のモデルを示し、それにならって計算し、その結果を正しいものと比較し、まちがっていれば自分の行動を修正する。私たちが今、さまざまな計算ができるというのは、そうしたことを積み重ねてきたからなのである。

 つまり、相手に育てるべき行動をできるようにしてやるには、その行動を成立させるための脳の働き方を経験させてやらなければならないということである。指導的立場にあるものには、こうした脳行動学に基づく視点を持つことが、大変重要な課題であるといえよう。育てるべき相手の成長を大きく左右することになるからである。

▼あなたは、あなたが育てるべき相手の脳を働かせているか。
▼育てるべき相手に、目標や理念ばかり語っていないか。
▼考えたり決断している行動したのは、あなただけになっていないか。
▼わかりにくい指示で相手を混乱させたり、批判と叱責ばかりでやる気を失わせていないか。
▼その行動を成立させるための脳の働かせ方を、ちゃんと経験させているだろうか。

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